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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)102号 判決

原告

協業組合カンセイ

右代表者代表理事

曙正義

右訴訟代理人弁護士

本城孝一

大井相石

被告

公正取引委員会

右代表者委員長

根來泰周

右指定代理人

吉田安志

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告に対する公正取引委員会平成九年(判)第二号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に基づく課徴金納付命令審判事件について、被告が平成一〇年三月一一日付けでした審決(以下「本件審決」という。)のうち、九六七万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件は、原告らによる私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二二年法律第五四号。以下「独占禁止法」という。)三条違反の行為について、被告から原告に対しなされた課徴金一九三四万円の納付を命ずる本件審決のうち、九六七万円を超えて納付を命じる部分には、同法八二条二号違反の違法があるとして、原告が右部分の取消しを求めた事案である。

二  本件審決に至る経緯(当事者間に争いにない事実及び記録上明白な事実)

1  原告は、中小企業団体の組織に関する法律(昭和三二年法律第一八五号。以下「中団法」という。)に基づき、昭和三二年三月九日に出資金一〇〇〇万円で設立された協業組合であり、水道施設工事業及び管工事業を営むものである。

2  被告は、平成八年四月二三日、独占禁止法四八条四項に基づき、原告ほか八名(原告以外の八名はいずれも株式会社)に対し、原告らは、共同して、遅くとも平成三年四月から平成七年四月一二日までの間、千歳市及び同市ガス水道局が発注するガス水道配管等工事に関し、あらかじめ受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにした(以下「本件カルテル」という。)ものであり、これは同法二条六項の不当な取引制限に該当し、同法三条に違反するとして、勧告審決をなした。

そして、被告は、平成九年三月一二日、同法四八条の二第一項に基づき、原告に対し、本件カルテルに関し、一九三四万円の納付を命ずる課徴金納付命令をなした。この課徴金の算定根拠は、次のようなものであった。すなわち、原告の本件カルテルの実行期間は、平成四年四月一三日から平成七年四月一二日までの三年間であり、この間の三九件の契約により定められた対価の合計額は三億二二三四万三六五〇円であるから、同法七条の二第一項の規定により、右三億二二三四万三六五〇円に一〇〇分の六を乗じて一九三四万円(ただし、同条四項により一万円未満は切り捨て)が算出された。

3  原告は、平成九年四月四日、独占禁止法四八条の二第五項に基づき、右納付命令に不服があるとして、被告に対し、審判手続の開始の請求をした。被告は、同月二三日、同法四九条一項に基づき、審判開始決定をし、以後、審判手続が行われた。審判手続における原告の主張の骨子は、原告は同法七条の二第二項一号の「資本の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人」(以下「会社及び個人」ともいう。)に該当するというべきであるから、原告に課せられるべき課徴金の金額は、前記対価合計額に一〇〇分の三を乗じた九六七万円にすぎないというものであった。

しかしながら、平成一〇年三月一一日になされた本件審決は、原告の右主張を採用せず、原告に対しては同法七条の二第一項が適用されるべきであるとして、原告に対し、課徴金一九三四万円の納付を命じた。なお、本件審決には委員一名の反対意見が付されており、右反対意見は、原告に対しては同条第二項一号が適用されるべきであるとしていた。

三  争点

1  本件の争点は、原告に対する課徴金を算定するに当たって前記対価合計額に乗ずべき率(以下「算定率」という。)は、独占禁止法七条の二第一項による一〇〇分の六か、それとも同条第二項一号による一〇〇分の三かであり、換言すると、原告は同条第一項の「事業者」に当たるのか、それとも同条第二項一号の「会社及び個人」に当たるのかにあり、これに関する当事者双方の主張は、以下のとおりである。

2  原告の主張

(一) 独占禁止法による課徴金制度は、昭和五二年の法改正により導入されたものであるが、その後同法違反行為の抑止効果を強める観点から、カルテルに係る課徴金引上げが日米構造問題協議に関する日本側措置の一部として決定された。右の経緯並びに趣旨に基づき、平成三年の法改正により課徴金算定基準が大幅に引き上げられ、現行規定となった。

現行規定は、同法七条の二第一項において原則的基準として一〇〇分の六の算定率を定め、第二項において一定の事業者に対して適用すべき一〇〇分の三の算定率を定めている。右規定に定める算定率の適用区分は、法改正の経緯及びその関係資料(課徴金に関する独占禁止法改正問題懇談会報告書、衆・参両議員商工委員会議録)からして、対象事業者の企業規模によるものであって、対象事業者の存立(企業)形態によるものではないことが明白である。

(二) 独占禁止法七条の二第二項は、対象事業者を「会社及び個人」と定めているが、本件審決における反対意見が述べているとおり、右規定は、同条第一項の「事業者」と同条第二項の「会社及び個人」とを同義に考えた結果であり、もし、同項適用者を「会社」又は「個人」という存立(企業)形態(法形式)に限定するとするならば、法改正の立法趣旨に明白に反する。

このことは、被告が発行している「課徴金算定手続の概要」二頁の記載からも容易に推測できる。すなわち、そこでは、右適用区分は「大企業」か「中小企業」かでなされ、また、「中小事業者」は、事業ごとに、資本又は出資の額ないし従業員の数を基準に判断されるものとされており、そのうち更に「会社」又は「個人」に限定されるなどということは全く記載されていない。

被告は、平成三年の法改正において同条第二項を適用すべき中小企業者の範囲を「会社及び個人」に限定した旨主張するが、法改正時の関係資料によっても、右範囲は中小企業関係法令の一般的定義によったとされているにすぎず、それ以上に「会社及び個人」という企業形態に限定する意図から右一般的定義を引用したことを窺わせるものは何もない。

(三) もし、被告が主張するように、独占禁止法七条の二第二項が、同一の企業規模のうち、「会社及び個人」とそれ以外の企業形態を区別する趣旨をも含めて規定したというのであれば、そのような区別をした実質的理由が存在しなければならない。それがないにもかかわらず、同項が文字どおり「会社及び個人」に限定する趣旨で規定されたとするならば、これは明らかに立法裁量の逸脱であるから、違法であるといわざるを得ない。

(四) 以上のとおり、原告に対する課徴金額の算定に当たって適用されるべき条項は、独占禁止法七条の二第二項一号であり、本件審決の反対意見がるる述べるとおり、原告に対し同条項を適用することはその解釈として何ら問題はなく、立法趣旨に最も良く沿うものであることは明らかである。

したがって、原告に対し同条第一項を適用して課徴金を課した本件審決には右法令適用の違法がある。

3  被告の主張

(一) 法規の解釈に当たっては、まず、明文の規定を素直に読んで、そこから理解される意味が一義的に明確であれば、法文どおりに解釈すべきであることはいうまでもない。独占禁止法七条の二第二項一号ないし三号は、いずれも「会社及び個人であって、……事業を主たる事業として営むもの」と規定しており、明文の規定から理解される意味は一義的に明確である。

そして、一般に、「会社」とは、商法会社編の規定によって設立される合名会社、合資会社及び株式会社並びに有限会社法によって設立される有限会社をいうものとされており、しかも、独占禁止法上、事業者と会社とは異なる概念として規定されているから、明文で「会社」と規定された場合に、その法形式が意義を有することは明らかであり、その概念や範囲についても、解釈上、一義的に明確である。

また、独占禁止法に基づく課徴金制度は、法定要件を充足するカルテル行為に関し、公正取引委員会において、カルテルに参加した事業者に対し課徴金の納付を命ずるというものであるが、課徴金の納付を命ずるか否かにつき裁量判断を行う余地はなく、当該事業者の情状等に応じて課徴金の額を定める裁量の余地もなく、公正取引委員会には、同法の定める算出基準に従って、一律に所定額の課徴金の納付を命ずることが義務づけられている。このような課徴金制度の非裁量性からしても、「会社」の意義について右に述べたところと異なって解釈することはできない。

(二) 昭和五二年の法改正により導入された課徴金制度については、平成三年の法改正により現行の規定となったが、その趣旨は、法違反行為に対する抑止力の強化のための具体的方策の一環として課徴金を引き上げることとし、課徴金の算定方式については、行政措置として簡明性、明確性、透明性等が重要であることを勘案し、カルテル対象商品の売上額に算定率を乗じて課徴金の額を算出する方式を採用したことにある。

これを敷衍すると、課徴金の水準と算定方式については、規模の大きい企業によってカルテルが行われた場合に国民経済に与える影響が特に広くかつ重大であることやこれまでの課徴金の対象となった違反事件の実態も踏まえると、一定規模以上の企業の利益率を用いるのが適当であることから、原則の算定率として、資本金一億円以上の企業(卸売業及び小売業を除く。)の営業利益率の平均値を基に、売上額の一〇〇分の六に設定することとし、他方、規模の小さい企業については、カルテルを実行した場合、その経済的利得も相対的に小さくなる傾向があり、また、一般に企業の規模に応じて営業利益率にかなりの幅があることを踏まえ、小規模の企業について適切な措置を講ずることが妥当であることから、中小企業については、原則の算定率とは別の算定率を設定することにした。そして、この算定率の適用される中小事業者(中小企業)の範囲は、経済法及び競争政策の体系の中で用いられている企業規模の区分と整合性のあるものであること、安定的な指標すなわち頻繁に変更されないものであること、事業者に理解しやすいものであることを踏まえ、中小企業関係法令において一般に用いられている中小企業者の範囲によることにした。すなわち、独占禁止法七条の二第二項の立法趣旨及び目的は、中小企業者について、同条第一項の課徴金算定率より低い算定率を用いることとし、かつ、その中小企業者の範囲を、中小企業基本法及び中団法等の定めと同様に、資本などの額又は従業員数が一定規模の会社及び個人と明文で規定したものと解するのが相当である。

原告は、同法七条の二第一項と第二項の適用区分は、課徴金対象事業者の企業規模によると主張するが、これは、同条第二項が第一項の過徴金算定率よりも低い算定率を適用すべき中小企業者の範囲を一定規模以下の「会社及び個人」に限定した意義を考慮していないものであり、その立法趣旨及び目的を正しく理解しないものである。

本件で問題とされる「協業組合」は、中団法三条一項七号に規定される中小企業団体であり、独占禁止法七条の二第二項各号の「会社」に該当しないことは、文理解釈上明らかである。そして、中小企業関係法令における「中小企業者」の定義ないし範囲に関する規定の仕方をみても、「中小企業者」とは、一般的には規模が中小程度のものをいうと解されるが、一言で「中小企業者」といっても、その範囲は必ずしも自明ではないのであって、中小企業関係法令においては、それぞれの政策判断のもとで、それぞれの立法趣旨、目的に応じて、「中小企業者」の定義がされ、その範囲が画されており、協業組合についても、中小企業関係法令において必要に応じて明文で「中小企業者」の定義規定の中に加えるという立法上の手当がされている。したがって、独占禁止法七条の二第二項各号のように明文で「会社」と規定されている場合に、これを拡張解釈ないし類推解釈して、会社の概念に協業組合を含ませることはできないというべきである。

(三) 更に、独占禁止法七条の二第二項が軽減率を適用すべき事業者を中小企業者のうちの「会社及び個人」に限定し、協業組合を除外した実質的理由は、次のとおりであると考えられる。

すなわち、中団法五条の五、六によると、定款で定めたときは、中小企業者以外の者も総組合員の四分の一を限度として、協業組合への加入が認められている。したがって、大規模事業者が加入しているものの、組合自体の出資の総額及び常時使用する従業員の数は、独占禁止法七条の二第二項に規定する中小事業者の要件を充たしているという協業組合が存在し得ることになるが、そのような大規模事業者の加入した協業組合の組織の実態としては、その企業規模等において大規模事業者としての実質を備え、経済的な競争単位として大規模事業者に匹敵する経済活動を行うことが可能であり、更に、これがカルテルを実行すれば、国民経済に広くかつ重大な影響を与え、その経済的利得も大きいという場合が生じることになる(ちなみに、一定の取引分野において、ある業種に属する事業者のすべて又はその大部分のものが一つの協業組合を設立し、協業を図る場合には、その協業組合は、いわゆる地域独占体となることが考えられるので、中団法五条の二二によると、公正取引委員会は、協業組合の事業活動が一定の取引分野における競争を実質的に制限することによって不当に対価を引き上げることになると認めるときは、主務大臣に対し、中小企業等協同組合法一〇五条の四第一項の規定による措置をとるべきことを請求することができる旨定めている。)。しかしながら、そのような場合にまで、独占禁止法七条の二第二項を適用することになれば、中小企業者について、同条一項より低い算定率を用いることにした同条二項の立法趣旨を没却することになるから、かかる事態を避けるため、一律に協業組合を同条二項の適用範囲から除外する必要があるのである。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、独占禁止法七条の二第二項一号の「会社及び個人」には協業組合は含まれず、原告に対する課徴金の算定基準としては同条一項が適用されるものと判断する。以下、その理由を述べる。

1  独占禁止法における課徴金制度は、昭和五二年の同法の改正(法律第六三号)により導入されたものであるが、一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって、社会的公正を確保するとともに、違反行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたものであり、課徴金の納付命令は、右の目的を達成するために行政委員会である公正取引委員会が、法の定める手続に従ってカルテルに参加した事業者に対して課す行政上の措置である。

課徴金の算定基準については、当初、旧法七条の二で、事業者が商品又は役務の対価に係るか又は対価に影響のある不当な取引制限をしたときは、その実行期間の売上額に一〇〇分の三(ただし、製造業は一〇〇分の四、小売業は一〇〇分の二、卸売業は一〇〇分の一)を乗じた額の二分の一を課徴金として国庫への納付を命じる旨規定されていたが、平成三年に法改正(法律第四二号)がなされ、現行法七条の二は、まず一項として、売上額に一〇〇分の六(小売業は一〇〇分の二、卸売業は一〇〇分の一)を乗じた額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならないと定めるとともに、二項を追加し、課徴金納付命令の対象となる当該事業者が、資本の額又は出資の総額が一定額以下の会社並びに常時使用する従業員の数が一定数以下の会社及び個人であるときは、一項の一〇〇分の六を一〇〇分の三とし、一〇〇分の二を一〇〇分の一とすることにした。

2  右法改正の趣旨は、法違反行為に対する抑止力の強化のための具体的方策の一環として、課徴金を引き上げることにしたものであり、その算定方式については、行政措置としての簡明性、明確性、透明性等が重要であることを勘案し、カルテル対象商品の売上額に一定の算定率を乗じて課徴金の額を算定する方式を維持しつつも、算定率の設定に当たっては、規模の大きい企業によってカルテルが行われた場合に国民経済に与える影響が特に広くかつ重大であることや、これまで課徴金の対象となった違反事件の実態を踏まえると、一定規模以上の企業の利益率を用いるのが適当であることから、原則の算定率としては、資本金一億円を超える企業(卸売業及び小売業を除く。)の営業利益率の平均値を基に、売上額の一〇〇分の六とすることとし、他方、規模の小さい企業については、カルテルを実行した場合、その経済的利得も相対的に小さくなる傾向があり、また、一般に企業の規模に応じて営業利得率にかなりの幅があることを踏まえ、適切な措置を講ずることが妥当であることから、中小企業については、原則の算定率より軽減した算定率(以下「軽減率」ともいう。)を用いることとし、この軽減率が適用される中小事業者(中小企業)の範囲については、経済法及び競争政策の体系の中で用いられている企業規模の区分と整合性のあるものであること、安定的な指標すなわち頻繁に変更されないこと、事業者に理解しやすいものであることを踏まえ、中小企業関係法令において一般に用いられている中小企業者の範囲によることとし、右のとおり「会社及び個人」に限定することとした。

すなわち、中小企業関係法令の基本法である中小企業基本法二条一号(昭和三八年法律第一五四号。以下「基本法」という。)及び中団法五条は、中小企業者の定義ないし範囲について、右と同趣旨又は同一の定めを置いており、ほかに中小企業者の定義ないし範囲について右と同様の規定をするものとして、中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業の事業活動の調整に関する法律(昭和五二年法律第七四号)二条、中小企業近代化資金等助成法(昭和三一年法律第一一五号)二条があり、他方、中小企業近代化促進法(昭和三八年法律第六四号)は、中小企業者の定義ないし範囲について、「会社及び個人」のほかに、企業組合及び協業組合が含まれるものと定め、中小企業金融公庫法(昭和二八年法律第一三八号)及び中小企業信用保険法(昭和二五年法律第二六四号)は、「会社及び個人」のほかに、協業組合であって、特定事業を行うもの等が含まれると定めているが、独占禁止法七条の二第二項は、このような中小企業関係法令における中小企業者の定義づけを踏まえて、基本法及び中団法における定義と同様、軽減率を適用する中小企業者の範囲を「会社及び個人」に限定し、協業組合、企業組合等を除外したものと解さざるを得ないのである。

もっとも、平成三年の法改正の際に衆議院商工委員会でなされた提案理由の説明(甲三、四の各1、2)や法改正の基礎となった課徴金に関する独占禁止法改正問題懇談会報告書(甲一の1、2)等においては、軽減率を適用すべき対象者の範囲につき「小さい事業者」「中小企業」「一定規模以下の事業者」「小規模の企業」などとされているにすぎないけれども、法改正の骨子の一つが一定規模以下の企業に対しては軽減率を適用することにあったために右のような説明がなされたものにすぎず、その際に、「会社及び個人」以外の協業組合等の中小企業が、この軽減率を適用される者に当たるか否かの厳密な議論ないし説明が要求されていたとは考えられないから、平成三年の法改正の際に右のような説明がされているからといって、独占禁止法七条の二第二項各号の「会社及び個人」を協業組合等を含む中小企業者全体であると解することはできない。

3  そして、独占禁止法七条の二第二項各号が課徴金算定に当たって軽減率を適用すべき中小企業者の範囲を「会社及び個人」に限定し、協業組合等を除外した実質的理由をみると、同項が軽減率を設定したのは、事業規模の小さい事業者は、その取引上の地位が劣るために、他の事業者とカルテルを行っても、カルテルの内容を実施するうえにおいて、所期のとおりの成果を得ることが相対的に難しく、それによって得る経済的利益も相対的に小さくなることが考慮されたためであると解される。

ところで、中小企業関係法令は、中小企業が有効な取引単位としての地位を保持できるようにすることを一般的な目的とするものであって、協業組合等は、このような目的を実現するために、複数の事業者の事業の共同化を図るための組織体として設立されるものである(中団法五条の二によると、その目的は、組合員の生産、販売その他の事業活動についての協業を図ることにより、企業規模の適正化による生産性の向上等を効率的に推進し、その共同の利益を増進することにあると定める。)。とりわけ、協業組合については、一定の取引分野において、ある業種に属する事業者のすべて又はその大部分のものが一つの協業組合を設立し、協業を図る場合には、いわゆる地域独占体を構成することが考えられ(なお、中団法五条の二二によると、公正取引委員会は、協業組合の事業活動が一定の取引分野における競争を実質的に制限することによって不当に対価を引き上げることになると認めるときは、主務大臣に対し、中小企業等協同組合法一〇五条の四第一項の規定による措置をとるべきことを請求することができる旨定めている。)、しかも、中団法五条の五、六によると、定款で定めたときは、中小企業者以外の者も総組合員の四分の一を限度(ただし、同条の九第四項によると、中小企業者以外の者の出資総口数は一〇〇分の五〇未満まで可能であるとされている。)として加入が認められているから、大規模事業者が加入しているものの、組合自体の出資の総額及び常時使用する従業員の数は、法七条の二第二項各号に規定する中小事業者の要件を充たす協業組合が存在し得ることになるが、そのような大規模事業者の加入した協業組合の組織の実態としては、その企業規模等において大規模事業者としての実質を備え、経済的な競争単位として大規模事業者に匹敵する経済的活動を行うことが可能であり、したがって、これがカルテルを実行すれば、国民経済に広くかつ重大な影響を与え、その経済的利得も大きいという場合が生じることになる。

以上のような中小企業関係法令に基づく協同組合その他の組合の特質を考慮すると、組織体自体の出資の額及び従業員数の基準のみによって、その取引上の地位が劣るものとみることは必ずしも適当ではなく、課徴金の算定基準を改正するに当たり、協同組合その他の組合については、原則の算定率を適用し、軽減率を適用すべき中小企業者の範囲から除外することに合理性があるものというべきである。

4  独占禁止法七条の二第一項は、事業者に対する課徴金についての原則規定として、その算定方式、算定率等を定めるのに対し、同条第二項は、その例外規定として、軽減率とそれを適用する事業者を「会社及び個人」と定めるものであるから、これについては厳格に解釈する必要があるのはいうまでもない。ところで、「会社」とは、一般に、営利を目的とする社団法人であって、商法会社編の規定又は有限会社法によって設立されるものをいい、具体的には合名会社、合資会社及び株式会社並びに有限会社をいうものとされているが、独占禁止法七条の二第二項各号の「会社」の意義について、同法上、右一般的意義と異なる解釈をすべき規定を見出すことができない。むしろ、同法は、まず「事業者」について、商業、工業、金融業その他の事業を行うものと定義し(二条一項)、「会社」はその「事業者」の一部を指す概念として規定しており(同法七条の二第五項は、「事業者が会社である場合」と定め、株式保有の制限について、同法一〇条は会社に関して、同法一四条は会社以外の者に関して規定している。)、「会社」と「事業者」とを同義と解釈する余地を除いている。

したがって、その文理解釈からしても、独占禁止法七条の二第二項各号の「会社」とは、合名会社、合資会社及び株式会社並びに有限会社を指すものといわざるを得ないのであり、これを「事業者」と同視してこれに協業組合その他の組合が含まれるものと解することはできない。

5  以上のとおり、独占禁止法七条の二について、平成三年の法改正の経緯、その立法趣旨、中小企業関係法令との整合性、会社と協業組合その他の組合との相違及びその文理等を総合勘案すると、同条第二項各号の「会社及び個人」に協業組合が含まれると解することはできず、協業組合である原告に対する課徴金の算定については同条第一項が適用されるべきであることが明らかである。

二  ところで、原告は、本件審決における反対意見を援用するところ、右反対意見は、まず、独占禁止法七条の二第二項が定める軽減率は、もっぱら企業規模による収益力格差等に着目して設定され、企業形態の差異については何ら顧慮されていないものであり、それにもかかわらず、同項が「事業者」とすべきところを「会社及び個人」と規定したのは、法違反事業者の企業形態としては通常個人又は会社であると認識されていたため、「事業者」と「会社及び個人」との間に概念上の乖離がありながら、そのまま中小企業関係法令で用いられている定義規定を引用して規定した結果、立法趣旨と間隙が生ずる規定振りとなった旨述べる。しかしながら、前記説示のとおり、同項各号は、もっぱら企業規模のみから軽減率を適用すべき対象者を「会社及び個人」に限定したわけではなく、「会社及び個人」と協業組合その他の組合との相違をも考慮して規定されたものであり、決して「会社及び個人」と事業者とを同一視していたものではないと解されるから、右主張はその前提を欠き採用することができない。協業組合については、独占禁止法七条の二第二項に定める「会社及び個人」と異なり、その出資の額及び従業員の人数のみにより、一般的に収益力や経済的影響力の弱い小規模の事業者であるか否かを定め得ないことは、前記第三、一、3に説示したとおりであって、同法が、同条第一項と第二項とで規定の文言を別異にした趣旨を考慮することなく、同条第二項の適用に関し、「会社及び個人」を同条第一項所定の「事業者」と同様に解釈すべきであるというのは、条文の解釈としては相当でない。

次に、右反対意見は、中小企業関係法令は、対象となる中小企業者に対して税制上又は財政上の優遇策を講ずることとする場合には、その対象範囲を明確に限定することが必要かつ適当であるため、それぞれの法の目的、趣旨に即して対象となる中小企業者の範囲を企業形態の別も含めて具体的に明文で規定しているのであるが、独占禁止法は、中小企業関係法令と異なり、一般的な競争秩序法として企業規模の大小や企業形態に関係なく広く事業者を対象として行為規制を行うこととしており、中小企業者に対して特別の優遇措置を講じようとするものではないから、中小企業関係法令において組合等が特記されていることをもって、独占禁止法でも特記されていない限りこれらを除外して解さなければならないとする根拠とすることはできない旨主張する。しかしながら、中小企業関係法令や独占禁止法の趣旨及び目的が仮にそのようなものであるとしても、同法七条の二第二項各号の要件について、その対象範囲を明確にする必要があることに変わりはなく、同条項が中小企業関係法令の規定内容との整合性をも考慮して、軽減率を適用する中小企業者の範囲を「会社及び個人」に限定しているものと認められることは前記のとおりであるから、同法において協業組合その他の組合が特記されていない以上、これらが軽減率を適用される中小企業者の中に含まれると解することは困難であり、右主張も採用することができない。

更に、原告の援用する反対意見は、協業組合は、独占禁止法上の事業者としては会社と異ならない企業体としての実体を備えるものであって、税法上も協同組合や公益法人と異なり、会社と同等に普通法人として取り扱われているのであり、同法七条の二第二項各号の「会社」に含まれると解すべきである旨主張する。しかしながら、協業組合は、一般的な「会社」の意義から離れる存在であって、独占禁止法上も、「事業者」の一部とされている「会社」の中に協業組合が含まれると解することは困難であり、同法と関連する中小企業関係法令の中には、会社と協業組合を明確に区分して定義づけているものも少なくないことからすると、たとえ協業組合が社会的には会社に類似するような実態ないし機能を有するものであるとしても、これを商法又は有限会社法の定める会社と全く同視して、同法七条の二第二項各号の「会社」に協業組合が含まれると解釈することは到底できない。

三 以上によると、協業組合である原告は、独占禁止法七条の二第二項各号の「会社及び個人」ではなく、同条第一項の「事業者」に該当するから、原告に対し、同条第二項一号ではなく、同条第一項を適用して課徴金一九三四万円の納付を命じた本件審決は相当であり、本件審決に同法八二条二号の法令違反はない。

よって、原告の請求は理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官河野信夫 裁判官末永進 裁判官宮﨑公男 裁判官坂井満 裁判官大渕哲也)

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